太陽の消えた国、君の額の赤い花 拍手御礼SS

君が生まれた奇跡に

 予想はしていたが、ノーアは大変な難産で、国王であるゲイルすら無事生まれた後に顔をあわせて以来、絶対安静といわれて面会できなかった。
 頑張ったな、の一言をかけるのが精一杯だったその合間で対面した生まれたての子供はどちらに似ているかなんて判別できず――政務の多忙も原因に含め、三日後にようやく妻と我が子に会いにいけた。


 そして、我が子とまじまじと再会したゲイルの顔色は最高に悪かった。
「……どうしたの?」
 姫が生まれたら必ずそう名づけようと――その約束どおり、リオと名づけられた子を抱きながらノーアは問う。
 リオは金髪だった。どこからどう見ても。目の色は今眠っているので分からないが。生まれた直後は感動やら何やらでそんな細かいところまで見ていなかった。
 ゲイルは赤毛で、ノーアは銀髪だ。ゲイルの両親は二人とも金髪ではないし、オルヴィスの血筋で金髪は珍しすぎる。
「……金、髪だよな?」
 ゲイルが恐る恐る問うと、ノーアは複雑そうな顔をした。泣き出しそうにも見える。
「……疑うんだ」
「いや、そういうわけじゃ……」
「じゃあなんで聞くの」
 じっ、と妻に見つめられて(睨まれて)ゲイルも一歩下がる。
 疑うわけなかった。なんというか、純粋に疑問に思うだけで。
 しばし両者の睨み合いが続くと。
「…………ぷっ……っあはははははは!!」
 ノーアが突然笑い出した。リオは鈍いのか大声で笑っている母に抱かれてもまったく起きない。
「思ったとおりの反応するのね!おかしくって笑いこらえるの大変!」
「……なっ……人をからかうなよ!」
「だって……っ……くっ」
「笑いをこらえるな!」
 ふぅー……と深呼吸を何度か繰り返し、どうにかノーアも笑うのを止めた。
「私もね、最初は私に似て銀髪なんだろうと思ったんだけど、金髪だったから……なんでだろうと思ったの。それで……思い出したの。私の母が金髪だったって」
「……おまえの?」
 にっこりと微笑んで、ノーアはそう、と答えた。
「私には記憶がないけど、ラトヴィアが言っていたの思い出したの。それはそれは綺麗な金髪だったって。だからこの子は、隔世遺伝ね」
 ノーアは引き出しから古いロケットを取り出し、中身をゲイルに見せた。それは、色褪せ艶を失った髪の毛だった。
「赤子の私は母の髪が好きで、放そうとしなかったと。お別れの時もそうで、母が髪を一房切って私の手に握らせたって。これがそう」
 確かにそれは金髪だった。ノーアはロケットの蓋を閉じ、再び引き出しに閉まった。
「昔は信じられなかった。ラトヴィアが私のことを思って言ってくれた嘘だろうと――でも嘘なんかじゃなかった。本当だった……」
 リオを抱きしめながら、ノーアは今にも泣き出しそうな声で呟いた。
 母の異変に気づいたのか、リオが起きた。泣き出すわけでもなく、ただ母親を見上げている。
 その目は、金目のような榛色だった。
「リオは私の宝物。だってお母さまから髪を、ゲイルから目をもらった子だもの」
 にっこりをノーアは笑う。リオも同じように満面の笑みを浮かべた。
「俺達の、だろ」
 訂正すると、ノーアから我が子を受け取る。
 その小さな額に優しく、恭しくキスをする。まるで神聖な儀式か何かのように。


「ありがとう」



 ――生まれてきてくれて。

 ――この子を産んでくれて。



 ゲイルは目の前の妻と、腕に抱く我が子にそう呟いた。




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