50title For you(可憐な王子/アドル・レイ)

君が僕の一番だ

 幼い息子と娘が、庭園ではしゃいでいる。
 息子のセオルナードは驚くほどレイにそっくりで、娘のフランディールは俺に――認めたくないし認めるつもりもないが、当然俺の双子のリノルアースにもそっくりだ。子どもたちが並んでいると、まるでタイムスリップしたかのような光景を目の当たりにする。
 公務を抜け出してこうして子どもたちと遊んだり、遊ぶ姿を眺めたりするのが癒しだ。

「とうさま!」

 俺の姿に気づいたフランディールが駆け寄ってくる。
「フラン、危ないよ」
 セオルナードが走り出したフランディールにそう注意するが、案の定フランディールはバランスを崩した。転ぶ寸前のところで抱きとめる。
「お転婆だなぁ、うちのお姫様は」
 くすくすと笑いながら抱き上げる。高くなった目線にフランディールは嬉しそうにはしゃいでいる。
「フランねぇ、にいさまとあそんでいたの」
「そうか、フランはセオルが大好きだなぁ」
「だいすき!」
 セオルナードがいいお兄ちゃんなので、すっかりフランディールはブラコンだ。「大きくなったらにいさまのお嫁さんになるの!」と父よりも先にその座を射止めた。文句なしの王子様のセオルナードを見て育ったのだから、当然の結果ともいえる。
 お兄ちゃんっ子なのはいいとして。

「フランは父様と母様のどっちが好き?」

 子どもに対する問いかけとして、無邪気なようで残酷な問いだ。しかしフランディールはぱっと目を輝かせて即答する。
「かあさま!」
「そうだよなー! 母様はすごいもんなぁー!」
 なんてたってあのレイだから! 
「セオルは?」
 フランディールを抱きかかえたままセオルナードを見ると「え」と困ったような顔する。
「……父上も母上も大好きです」
 お手本のような答えが返ってきて、俺は笑う。
「ホントおまえはレイにそっくりでかわいいなぁ」
 ぐしゃぐしゃと頭を撫でると、セオルナードは困惑した顔のまま俺を見上げてきていた。どんな答えが正解だったんだろう、とそう考えているような顔だ。
 答えなんて正直なんでもいい。
 母様が――レイが一番であるのは当然だ。世界の常識だ。だってあんなに素敵な人を俺は知らない。
 けれどそれでも俺もその彼女に並べてくれるのなら、それはそれで、たまらなく嬉しい。

「陛下」

 呆れたような声に、俺は振り返る。ああお迎えが来てしまった。
「レイ」
「こんなところにいらしたんですか。公務を放り出して」
 呆れているだけで怒ってはいないらしい。
「ちょっと休憩だよ」
「それならそれで一言伝言を残すべきです」
「レイなら必要ないよ」
 お見通しだからな、と笑う。否定しないあたり、俺の行動パターンは相変わらずわかっているんだろう。
「フラン、セオル。おまえたちもそろそろ部屋に戻りなさい。あまり外にいると風邪をひく」
「はい母上」
「はーい」
 俺がフランディールをおろすと、セオルナードがその幼い妹の手を握って城へ戻る。本当にいいお兄ちゃんだなぁ。
「……アドル様も、あんな質問をして何がしたいんですか」
 はぁ、とレイは溜息を吐き出した。聞かれていたのか、と苦笑する。
「子どもらもレイの良さを理解していて何よりだなって思って」
「意味がわかりません」
 王妃という立場もあって、彼女は昔よりも非情な選択をすることは増えた。誤解している人間も少なくはないだろう。
 けれど、家族が「レイ」を理解してくれているなら、問題ない。

「レイが世界でいちばん素敵だよって話」



 
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