番外2:一喜一憂?





 友達の家で飲むことになりました。

 携帯をチェックして、あきはから届いていたメールに思わず「はっ!?」と声をあげる。問題はそのあとの今日は帰れないかもしれないから、という文字だ。帰れない!? 帰れないってどういうことだ!
 慌てて電話するけれど、あきはの声を聞けないままに留守番電話に接続された。時計を確認して、ああこの時間なら講義だよなそうだよな、と自分に言い聞かせる。
 イライラとあきはからの着信を待つこと三十分ちょっと、携帯が鳴る。
『もしもし、翠くん?』
「あきは?」
 ついつい苛立ちから声が低くなった。あきははそんな気配を察知したのだろうか、口調をやわらげた。
『ごめんね。講義中だったから』
 知ってるよ。そういうことで苛立ってるんじゃないよ。
「いいけど。今日、泊まってくるの?」
『んー。その可能性が高いかな。帰れても遅くなると思うし』
 帰りが遅くなるって。あきはは一応まだ二十歳でしょ! そんなに遅くまで出歩いてて親は心配しないのって、ああ和佳子さんだったら心配しないだろうね!
 ていうかそれってさ! それってさ!
「それって、女友達?」
 口にしてからいやまて、男友達や彼氏を疑うのももっともだが、合コンっていう可能性もある。
「ていうか本当に友達?」
 聞きながら俺なんでこんなに問いつめてんの、そんな資格もないくせに。
『へ? なに? もちろん女友達だけど。いくらなんでも男友達の家での飲みには参加しないよ』
 男友達の家はさすがに危険って認識らしい。あの和佳子さんに育てられたわりにはしっかりしてんだなぁ、と思う。ふぅん、と小さく呟く。
「もし夜に帰ってくるなら連絡して。駅まで迎えにいくから」
『え、いいよ。悪いし』
 即答ですか。あなたは若い女子であることを忘れているんですか。近頃は物騒なんですよ?
「夜遅くに女の子の一人歩きなんて危ないでしょ」
 思ったままに指摘すると、電話の向こうで「う」と声がする。そんなのを意識したこともなかったって感じですね、あきはさん。
『うん、じゃあ帰るときは連絡するよ』
 はいはいそうしてください。番犬くらいにはなるからね。
 思うけどさー。あきはって警戒心ないの? あるの? 夜に自分の部屋に鍵をかけとくくらいには常識的なのにくっついてみても平然としてるしさぁ。匙加減おかしいからね、マジで。
「楽しんできて」
 精一杯のやさしさでそう言って、電話を切った。


 とんとんとん、と指でテーブルを叩く。
 自分で淹れたコーヒーはおいしくない。あきはが淹れてくれたほうがおいしい。ごはんだって自分で炊いたところで味気ない。もちろんカレーだけはおいしいけど。
 何度時計を見たかわからない。針は午後九時をさすところだった。
 あーもー、あきは大丈夫かなぁ、嘘をついていないだろうなぁ。
 携帯が鳴る。メールが届いているのを見て即座に開いた。

 ごめんね。抜け出せそうにないから泊まります。

「だぁああああああああ!」
 なんで、どうして、抜け出せないのか説明してくださいあきはさん!!

 本当に女の子だけ?

 俺どんだけ疑り深いの、ドラマとかの嫉妬深い女並みじゃない?
 しかもあきはからの返信はすぐにこない。いやいや、ほら、メールに気づいてないだけだって、うん。楽しくて気づいてないだけ。気づけない状況とかそういうんじゃない、うん。

 心配しなくても女の子だけだよ。

 しばし待ったすえに届いたメールには短い本文と、楽しげな女の人たち。いやいや、女しか写ってないだけで男が隠れてるんじゃないの、と一瞬また疑ったけれど、その考えはすぐに捨てた。
 わずかに写り込んでいる背景はどう考えでもワンルームの部屋で、しかも写っているあきはの友人であろう人々はみんなノーメイクで髪も適当にしばっている。しかもひとりひっどい変顔してるし。なに、この顔。
「はー、俺ちょーかっこわる」
 なんでこんなに一喜一憂してんの。たったひとりに。
 あきはと同居を始めてから、あきはは外泊なんてしていないしそもそも友人と出かけることも稀だった。もともとインドア派なのかもしれないけれど、休みは一日ごろごろしていることが多い。考えてみたら久々の息抜きなのだ。

 疑ってスミマセン。
 久々の女子会だろうから楽しんできて。

 反省の意味も込めてメールを送る。
 あーあー。いつの間に俺こんなにあきはに惚れちゃってるんだろうね?








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