うむ。やはり寒いときにはあったかい飲み物だな。
ホットミルクをふーふーしながら飲みつつ、一息つく。猫舌なんです。猫じゃないけど。猫は翠くん担当だけど。
「ただいまー」
お、噂をすれば翠くんですね。
ネイビーのマフラーをとりながら、翠くんはリビングにやってきた。男子高生の防御力は尋常じゃないと思う。なんでブレザーの中にカーディガン着ただけで寒さがしのげるんだ。いや生足の女子高生はそのさらに上をいくと思うけど。
マフラーくらいしか使わない彼らの身体に防寒具になりそうな脂肪なんてないのに。うん、謎。ついこの間まであたしも女子高生でしたけどね。冷え症だし生足なにそれおいしいの? って感じでした、はい。黒タイツでした、すみません。
「何飲んでるの?」
きょとん、とした顔をして翠くんがマグカップの中身を覗き込んでくる。そのかわいらしさはどこからやってくるんだろう。見習いたい。
「ホットミルク」
「……おいしい?」
んん? 翠くんは牛乳苦手な子だったかな?
「おいしいよ。あたしは好き」
牛乳臭くて嫌って人もいるよねぇ。うちの母親がそれだ。
でも紅茶でもコーヒーでも、ココアでもない気分のときってあるじゃない。ほっとしたい時ってあるじゃない。そういうときはホットミルクに限ります。寝る前とか最高に睡魔を呼んでくれます。
「ふぅん?」
興味はあるけど飲んでみようという気はない、という雰囲気。まぁそんなこんな言っているうちに飲み干してしまいましたがね。
翠くんは食事の準備は手伝わないけど(というか手伝わせない。あたしのペースが崩れるので)わりとマメな男子である。さぞモテるだろう……ってモテるんでしたね、はい。
「あきはー。あったかいの飲む?」
たとえば、寒いときに自分がコーヒーやらお茶やら飲もうと思ったとき、必ずあたしにも飲むか聞いてくれる。
「うん、欲しいかな」
「はいはい」
ケトルでお湯を沸かして、あたしがぼんやりしているうちに翠くんはマグカップを片手に「はい」と渡してくる。漂う香りはコーヒーですね……とカップの中身を見下ろして「んん?」となった。
真っ白なその液体は、どうみてもホットミルク。あれ、いつの間に電子レンジで温めたんです?
「……翠くんはコーヒーだね?」
だって香りがしますもんね。ね。
「うん」
「……なんであたしはホットミルク?」
お子様扱いしてます? してます?
今までついでに飲み物用意してくれるときは、いつも同じだったのに。わざわざ別の用意するってめんどくさくない?
「好きなんでしょ?」
「好きだけど」
さっきも飲みましたね。
――まぁいいか、とおおざっぱなところはあたしの美点でもあると思う。ありがと、とお礼を言いながら一口飲む。うん、おいしい。
翠くんは隣に座って、ぴっとりと肩をくっつけてくる。スキンシップ好きですよね、翠くん。素なのかと蒼くんに調査したところ、懐いた人間にはおおよそこんな感じらしい。懐くといっても身内なんかに限られているようだけど。
親に甘えるような年齢でもないし、お兄ちゃんにくっつくのも男臭いし、最近はそんなに甘えん坊でもなかったよ〜なんて電話口では笑っていたけど、つまりこれはその反動なのかな。と、あきはさんは思うわけです。
「あきは」
甘える声に「うん?」と答える。
握っていたマグカップが、翠くんの大きな手に奪われる。ことん、とテーブルに置かれたのが横目で見えたけれども。
「――ん」
なぜそちらを横目でしか見ることができないのかと言えば、翠くんにホールドされたあげくにちゅーされているからでありまして。
あ、ちょっと苦い。なんて思ったときには唇は離れていた。
ぺろり、と翠くんが唇を舐める。翠くんそれはえろい、えろいよ。高校生男子のやることじゃないよおねえさんのHP削られるからやめよう。
「……あまい」
ぽつりと呟いた翠くんに、あたしはソファに撃沈した。
くそ、この猫これを狙ってホットミルクにしたんだな……!!
マグカップに残ったホットミルクがいろんな意味で飲めなくなって、腹いせに翠くんのコーヒーを奪い取ったんだけど。
間接キスだよ、と嬉しそうに笑う彼に、あたしはまたも負けた。
::