魔法伯爵の娘

兄と手紙


 タシアンは以前にもまして、国境近くの屯所と王都への行き来が多くなった。それもこれも傍若無人な王太子に呼びつけられる回数が増えたことが最たる原因だ。
「タシアン、アイザから手紙は届いた?」
 書類に囲まれながらイアランはもう何度目かになる問いをタシアンに投げかけた。アイザがルテティアを発ってからというもの、たびたび聞かれている。
「……アイザが向こうへ行ってまだ一か月です。手紙すら届いていませんよ」
 もしかするとそろそろ一通目がきてもおかしくはないが、学園に慣れることで忙しいのだろう、とタシアンは思っている。しかしイアランは異父妹の様子が気になって仕方ないらしい。
「隠しているんじゃなくて?」
「なぜ俺が手紙を隠す必要があるんですか」
「独り占めしようっていう魂胆かなって」
「意味がわかりません」
 タシアンをたびたび王都に呼び出すのは、アイザの様子が知りたいからではないだろうか――と最近は思えてならない。いい迷惑だ。
「まぁ、向こうにもよろしく頼む、とは伝えているけどね。兄が妹を心配するのはそんなのおかしいかな?」
「……嫌味のつもりですか」
「さて、どうだろうね」
 アイザがタシアンにとっても異父妹であることを知りながらもイアランはこういう言い方をする。意地の悪い弟だ。弟などと思ったことは一度もないが、近頃はこうして血のつながりを強調してくる。イアランもタシアンも、己の中に流れる血を厭うていたはずなのに。
「長期休暇のときには帰ってくるんだろう? もちろん王都に連れてきてくれるよね?」
 いったい何か月後の話だ、とタシアンはため息を吐きだす。
「彼女次第でしょう」
「説き伏せて連れてくるのが君の役目だろう?」
「……殿下は俺をなんだと思っているんですか」
 タシアンが苦々しく呟くと、イアランはくすくすと楽しげに笑う。
 記念すべきアイザからの手紙が届くまで、こんなやりとりは何度も続いていた。



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