アタシとあいつは、幼なじみで相棒だった。


ふたり一緒なら、いつだって最強だった。


六月九日が小園聖花の誕生日で、
六月十一日が松浦郁人の誕生日なのだとすれば、
六月十日は郁人と聖花の誕生日なのだ。




「せいかには、わからないよ」
「そうだよ、わかんないよ」




ずっと一緒だったのに、
郁人ばかりが大人になっていく。

子どものままのアタシを置き去りにして。

















――時は明治四十三年の冬。

ここは、帝都にある高浜様のお屋敷である。


「今日はね、これを見せたかったの」
「……綺麗な、時計ですね」


「餞別に、持って行って」


重なり合った手の中で、
懐中時計の鎖がちゃらりと鳴った。


拝啓、セイさん。
暑さが厳しゅうございますが、いかがお過ごしでしょうか。


あたしと生野さんは、終ぞ、
再会を果たすことは、なかった。
















俺とあいつは最強の幼馴染で、相棒だった。



けれど、俺と聖花は男と女で、
別の生き物なのだと思い知らされる。

中学生になって、
制服という目に見える区別を与えられ、
いともたやすく男と女にも別れる。
なんて簡単な生き物なんだろう。



――ああ、聖花も女だったのだ。
俺と聖花は、別の生き物なのだ。




十年以上一緒にいたはずの幼馴染が、
とても遠く感じた。





「……遠くなったなぁ、おまえ」


静子ばーちゃんが死んだ。
高校三年の、夏のことだった。
















「貴方が、蓮見清四郎さん?」

「これを、直してもらえないかしら」

少女のてのひらには
似つかわしくない立派な懐中時計が、
ちゃらりと鎖を鳴らしていた。


時は昭和、この国は幾度かの戦争を繰り広げ、
今もまた戦火の真っ只中である。

「先日、下の兄も戦地へ行ってしまいました」
「肺の病で、戦えぬ身なので」


「戦争など、早く終わればいいですね」



壊れた時計は未だに時を刻まない。




「じゃあ、お元気で」
「……清四郎さんも」
「いつか、また……!」


いつか、また。
いつかまた、ここで、会えたら。



カチコチカチコチ。


彼が吹き込んだ時は、
私の中でしっかりといきていた。
















幼稚園から大学まで、
ずっと同じ学校だっていう人、いるだろうか。


だって聖花は女で、郁人は男だから。
きっといつかは、
距離が隔てられる運命だったんだろう。



「――あんた、また別れたんだって?」


きっと人は、一人では生きられなくて。



「おまえは、平気だった?」
「平気じゃない」

「平気じゃ、なかったよ」



「俺とおまえが一緒なら、いつだって最強だろ」

そう言って笑う郁人は、
幼い頃とおんなじ顔をしていた。



――相棒。
そう。ただしく、相棒だ。断じて恋人ではない。


「大事な人にあげなさいって、
 ばーちゃんに言われたんじゃん!」

「だから、おまえにやるんだよ」



六月十日。
郁人と聖花の、誕生日。


 ――時計をプレゼントする意味って知ってる?


「あたしも、郁人といきたい」



きっとこれは、あたしたちの、

郁人と聖花なりの、愛の形なんだろう。





















時は重なり、時は降り積もり。











2015 夏     
COMITIA113発行予定

illust:こち。
130頁/700円/文庫















title by Sakumo Kirihara, Thank you!




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