可憐な王子シリーズ番外

ウィルザードと双子の初めての遭遇


 人形みたいだ、というのがウィルザードが最初に双子に対して抱いた感想だった。


 まったく同じ顔をして、同じ色の揃いの服を着て並んでいると二人は精巧な人形のようで、それはおそらく子供心に双子が可愛らしいという感想を持った証拠だろう。
 二人は深紅の服を着ていて、その服がまた二人の赤みがかった金の髪をなお美しく飾っていた。



「お二人とも、ご挨拶を。ネイガス王国のウィルザード王子です。お二人のご親戚ですよ」


 ウィルザードよりも背の高い騎士服を着た、銀髪の少年が二人にそう促した。肩に届くくらいの銀髪が揺れて、きらきらと輝いていた。
 人見知りするのだろうか。双子は少年の後ろに隠れてこちらの様子を伺うばかりだ。
 それにしても、とウィルザードは首を傾げる。
 どう見ても一、二歳だけ年上の少年に、まだ七歳の双子を預けるなんて――この少年はよほど国王と王妃から信頼されているらしい。
「せっかくお二人の遊び相手にハウゼンランドまで来てくださったのですから、きちんとご挨拶くらいしてください」
 しかも、この少年は口調こそ丁寧だが明らかに双子を叱りつけている。王族にそんな口を利くことに何のためらいもないあたり、この少年がどれだけ双子とともにいるのか悟らせた。
「別に遊び相手なんてレイがいてくれればいいもの」
 女の子の方――リノルアースが、頬を膨らませてそう呟く。
「リノル様」
 諭すような声が降ってきて、リノルアースは背を向ける。
 その愛らしい動作に見とれたことは言うまでもない。
「アドルとレイがいてくれればいいもん」
 駄々をこねるリノルアースにレイが困り果てていると、それを悟った兄のアドルバードがリノルアースの手をとる。


「俺がウィルと遊びたいんだけど、リノルはまざってくれないの?」
 少し寂しそうなアドルバードの顔を見て、リノルアースの心が揺れたのは誰の目にも分かった。
 なんだかんだで妹は兄にべったりらしい。同じ顔なのに、中身はたぶん兄のほうが少しだけ大人のようだった。
 レイがほっとしたように表情が柔らかくなり、もう一度「ご挨拶を」と言った。
「アドルバードです」
「リノルアースです」
 ぺこりと下がった二つの頭を見てウィルザードは微笑む。
 二人だけの世界に入っていいのはこの少年だけらしいということもなんとなく分かった。
「よろしく」

 この双子は将来どうなるのだろう――幼い純粋な興味だった。
 騎士のように近くからではなく、かといって遠すぎず、微妙な距離を保ったままウィルザードはこの双子を観察しようと思った。






 ――後日レイのことを男だと思っていたウィルザードはアドルバードから鉄拳を食らった。





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