銀の王子と強がりな姫君(8)






 セオルナードが主犯のカーネリア誘拐(正確には合意の上なので誘拐ではないのかもしれない)事件は、まったく騒ぎにならないまま収束した。

 いつの間にかキリルがハウゼンランドへと連絡をとり、ハウゼンランド国王からルヴィリア国王へと連絡がいった。騒動が起きているまっただ中に、ルヴィリア王にしてみれば棚からぼた餅の話が舞い降りていたというわけだ。
 そうして、ハウゼンランドへ逃げ込んだときにはカーネリアを歓迎する準備が整っていた。これにはセオルナードも驚いたらしく、目を丸くしていた。
 カーネリアの滞在期間はさらに一ヶ月延長され、その後ルヴィリアに帰ることになっているものの、すぐに「花嫁修業」と称した滞在が決定していた。ルヴィリアでは居心地が悪かろうというカーネリアの父の配慮である。

「……一番重要な確認がまだだったのですが、いいんですか、カーネリア」
 城の庭園でセオルナードはカーネリアをエスコートしながら問う。すっかりと定着した「カーネリア」という呼び方に、本人はまだ少し恥ずかしい気持ちでいた。
「なにが、です?」
 少し意地悪かしら、なんて思いながらもカーネリアは聞き返した。逃げ出した時はあんなに強引だったのに、普段のセオルナードは実に真面目で紳士的で、常識的だ。あの日のめちゃくちゃさはなんだったのだろうと思うくらいに。
「俺としてはあなたをもう手離したくないし、いいかげんなつもりで告白したわけでもないので、この流れはいいんですが――。あなたは、結婚する相手が俺でいいんですか?」
「私を連れ去ったのはあなたですよ、セオル様」
「同意の上でしょう?」
「ええ、まぁ。強引でしたけど」
 強引、という言葉にセオルナードが苦い顔をする。カーネリアに考える隙を与えていなかったことは自覚しているらしい。

「私、今ははっきりと言えます。セオル様なら、私をしあわせにしてくれるでしょう?」

 にっこりと微笑みながら告げたカーネリアに、セオルナードは目を丸くする。そしてその言葉を咀嚼して――笑みを零す。もちろん、と甘く囁いた。

「しあわせにします。カーネリア」




 その後、堅物王子のセオルナードが愛の逃避行をしただとか、婚約者とラブラブだとか巷で噂となり、彼の人気がひっそりとあがったのはまた別の話。













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