眩しいくらいの青空に目を細める。
窓の向こうに見えるのはハウゼンランドの短い夏の青空だった。木々が緑が茂り、日差しがきらきらとしている。
金の姫ことフランディールと、キリル・リオ・バウアーの結婚はあの婚約者発表の夜から四ヶ月後、夏に行われることとなった。
『ぐずぐずしているとキリルってば逃げそうだから』と言われて神妙な顔になっているキリルに、かつての候補者たちも笑うしかなかった。
主役であるフランディールは真っ白なドレスに身を包んで、今はおとなしく控え室にいる。これから庭に集まっている招待客のもとで御披露目があり、今日の午後に教会で宣誓する。一国の姫の結婚式としては地味かもしれないが、盛大な式はフランディールが嫌がった。
「フラン」
こんこん、という控えめなノックのあとで、キリルが顔を出した。
名前を呼ばれて顔を上げたフランディールは、ふわりと笑う。
「おまえ、招待客の相手を全部俺にやらせやがって」
キリルはフランディールの手を握りながらぶつくさと呟いた。あら、とフランディールは目を丸くする。
「花嫁の仕事は綺麗に着飾っていることだもの。面倒なことは旦那様がやってくれないと」
「……おまえな」
まぁいいけど、とキリルが苦笑して、フランディールの頬を撫でた。
じっと見下ろしてくる緑色の瞳を見つめ返しながらフランディールは「なに?」と首を傾げた。
「キスしたいけど、今したらまずいよなぁと思って」
「っダ、ダメに決まってるでしょう! 口紅とれちゃう」
真顔でとんでもないことを言い出したキリルをぽかっと殴りながらフランディールは顔を真っ赤にする。キリルは「だよなぁ」と残念そうに笑った。
花びらが降ってくる。
溢れんばかりの拍手がふたりを包み込む。
フランディールはしあわせそうに笑いながら、隣にいるキリルを見上げた。
「どうした?」
きゅっと胸が締め付けられるようなこの感覚は、しあわせすぎるからだろうか。
ねぇ、キリル。フランディールが小さく呟くと、うん? と応える。
「だいすきよ」
世界にたったひとりの私だけの王子様。