太陽の消えた国、君の額の赤い花

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43

 それは、巨大な砂の塊だった。

 砂が人を飲み込んでしまうような柱を作り、突風と共にその地を荒らす。
 それはまるで生き物のように動き、人々を高く空まで上げ、吹き飛ばしていく。
 人々の悲鳴は全て風の音でかき消され、ある意味では無音の状態だった。



 ――――なんだ、あれは。




 ガジェスはしばし呆然と砂の柱を見た。



 あれは、自然に現れたものなどではない。
 ほんの数秒前までそんなものが起きる気配は微塵も無かった。
 そう、あの悲鳴が響き渡るまでは。









 オルヴィス軍がオアシスのすぐ近くまで来ている――その情報を得て、ガジェスは主であるアジムに命じられて様子を見に来た。
 少し前から主であるアジムの存在が噂になっていたのは承知の上だったし、その結果オルヴィスがやってくるかもしれないということも予想はしていた。
 そこで聞いたのは、懐かしい声。


「私はイシュヴィリアナの聖女、ノーア・ルティスです! どきなさい!」


 何故、貴女が。
 長く美しい銀の髪は、遠めからでも充分に輝いて見えた。
 その凛とした声は、記憶にあるものよりも少し大人びていた。
 けれどそれは、自分の知る聖女以外のものではなかった。記憶が彼女が本物であると証明していた。
 そして、呆然としている自分の目の前で矢の雨があの方に降り注ぎ――
「ノーア様!!」
 助けは、間に合い、そして間に合わなかった。
 遠くにいる自分が駆けつけ、助けられるわけがなかった。
 あの方は赤毛の青年の――確たる証拠はないが、おそらくオルヴィス王に大切に包み込まれ、守られていた。
 その代わりにオルヴィス王が無数の矢を受けていた。


 何故――――


 オルヴィス王があの方を守るのか。
 あの方はここにいるのか。


 そんな疑問が脳内を巡っている間に、それは起きた。






「ぃ、いやああああああああぁぁぁぁぁぁ!!!!!」






 耳を貫き、身体を引き裂いてしまいそうなほどに痛々しい悲鳴と共に、砂嵐が起こった。






 人々の悲鳴をも飲み込む轟音。
 離れた場所にいる自分ですら吹き飛びそうなほどの風圧。
 強い風に呼吸も難しくなる。







 守った者と、守られた者、ただ二人を中心に、それはしばらく続いた。








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